【焚き火の前で】
【鳥肌】
風呂に入った時に、全身にブワッと鳥肌が立つのが好きだ。
11月、今年一番かも知れないと言われた大きな満月が、少しずつ、また欠けはじめた。雨が少しだけ冬のはじまりを連れてきた。
こんな夜に入る風呂が好きだ。まだ肌が慣れない冷たい風に、痩せ我慢という防寒具で挑むと、たちまち体は縮こまる。そのタイミングで飛び込む風呂がいい。全身に鳥羽が湧き立つ。
焚き火をするにはこんな季節がいい。こっちは不慣れな素人だから、寒すぎない季節がいい。暑い季節にはやりたくない。去年の焚き火を思い出しながら、今年の焚き火の備えをする。
【河川敷】
多摩川の河川敷で、手ぶらで焚き火ができることを知った。最寄駅は東急線の新丸子駅。途中コンビニやスーパーで買い出しをして、河川敷に向かう。駅を背にして多摩川に向かうと、右手に丸子橋をみるかたちで、河原を見下ろす。
17時からスタートと焚き火サイトのHPには書いてあったけど、時間はまだ16時過ぎだ。見下ろした河原には、仮説のテントが立っている。受付はあそこか。
ネットで予約をしておけば、後は受付をして、現金で支払いをすれば21時までの自由時間。好きに焚き火ができる。ゴミ箱もある。最後は受付に声をかければ、下火になった焚き火も放置して帰れる。
素晴らしい焚き火システム。疲れた都会の生活を忘れさせる。「多摩川、焚き火」で検索すると、誰でも簡単に予約できる。川崎市と話し合いの上なので、環境配慮もある。一人でも友人とでも、行けばそこは別世界。
【焚き火の宴】
普段、家で少し物足りない気持ちで食べていた。多分それは味よりも『無添加物界隈』の問題なのか。生協のソーセージを串刺しにして、焚き火にかざす。遠赤外線というのか、直に火に当たっているわけではないのに、ゆっくりとソーセージは狐色に変わる。
カプ。ジュワ!熱っっ!!ヤバ!激ウマ!何これ!うま!
これは、シェフの自慢の逸品か。これは焚き火の効果なのか。そう言えば先程から様子がちがう。
プシュッと開けた缶ビールから、何かが違う。ウィングカラーのシャツに黒い蝶ネクタイを仰々しく結んだソムリエが耳元で囁く。
こちらは、日本四大ビール会社の缶ビール。直飲みでございます。缶から直接ゆっくりとお飲みください。眼下に広がるのは広大な多摩川の河川敷。
まだ少し熱気を含む夕方の秋風が今年の一番を搾りだす。それは、ほんのりかいた額の汗を爽やかに乾かす。
次は、新作!北海道メイクイーンの薄切り揚げ。日本でも最大級のコンビニエンスストア・セブンイレブンからの夕獲れ直送でございます。そう言ってパリッと袋を切る音が心地いい。
夕陽を遮るようにして、都心へ向かう列車が、その横を力強く走り抜け、橋を越える。その音に合わせて、小気味良く弾ける、薄・ソルト・テイスト。
そして出てきたメインディッシュ。
『無添加生協の無着色ソーセージの直火薪焼き
〜多摩川の風と土の香り〜 』
塩もソースも使わず、ただそのまま素材の味をお楽しみください。気がつくと辺りはもう暗くなり、すっかり宴の酔い。
ウェイターが、がプロの早技でさりげなく開けた、『河川敷で飲む男のワンカップ』が五臓六腑に染み渡る。揺れる炎は、視覚を麻痺させていく。自分が揺れているのか、炎が揺れているのか。
さらにパーティーつづき、燃え上がる炎。揺れる視線。震える指先。ワンカップの上をゆくのは、紙パックの日本酒だ。
どうして紙パックにストローを刺して飲むのか。それは、震える指先でも、迷わぬように。星もない暗闇でもその唇に触れるストローから流れ込む日本酒の最後の一滴まで、こぼさず飲めるように。それはもはや神パック。
松明(たいまつ)の様に燃え上がった真っ黒のマシュマロは、クレーム・ド・ブリュレの味がした。そんな去年の焚き火多摩川河川敷。
今宵もエンヤコーラ。