【変革と旬】

【雷】

 雷鳴が轟く。光の柱がいくつも街に落ち、巨大な和太鼓のような衝撃波が、数秒遅れてやってくる。空が崩壊したのかと見紛うばかりの、大雨が降り落ちて、地下にそれが流れ込み、マンホールから溢れ出す。

 昔は、どこか遠くの国の出来事だった。でも今はこの国でも起きている。大きな気候の変動だ。

 驚いてベランダに飛び出してカメラをまわす。雷を写真に捉える腕はない。無心になってビデオに切り替えたその直後、真っ白な空が目の前に広がった。

 やっと涼しさを感じる季節になったのは、10月に入ってから。あの暑くて異国のような光景が、たった1カ月前のことだとはとても信じられない。

 あの時の「雷」を僕はカメラに収めていた。正直にいうと、偶然まわしていたiPhoneの動画に映っていた。それをスクショで撮って少しだけ加工した。でもそれは紛れもない「雷」の写真だ。

 フィルムの時代だったら考えられない快挙。昔ならそれだけで写真展の一画として展示してもらえたかも知れない。

 

 スマホカメラの技術進歩は、革新的だ。スマホ一台で映画も撮れてしまうという。あの時の臨場感や迫力をこの一枚の写真が伝えてくれる。

 そんな時代が素人である僕の手元にも訪れた。きっとこれは僕が想像する以上に大きな大きな変化なんだろう。

【レーザー】

 人生で初めて、顔にできたシミを、レーザーで除去した。目を守るためにステンレス製のアイマスクを乗せる。その直後に「バチッ」とレーザーが照射される。思った以上の衝撃だ。

 確実に何かが当たっている感覚がある。アイマスクをしているのに、閉じた目にも赤くそれがみえる。さほど痛いわけではない。そのまま、何度もレーザー照射が繰り返される。

 保冷剤でしばらく冷やし、鏡をみるとシミは先ほどより分かりやすく黒くなり、周りは赤く腫れている。なんだかすごい達成感がある。

 日光に当ててはいけない。3種のビタミンを飲む。2種のクリームのうち1種は夜しかつけてはいけない。なんだか「グレムリン」の3つの約束みたい。

 映画の題名が「グレムリン」。本編字幕では小悪魔と訳されて、これが街で暴れ出す。生物名は「モグアイ」。主人公が名付けた名前が「ギズモ」。この子は最後まで可愛い。

 3つの約束は意外と覚えられない。生活に馴染ませるには、何度か処方された説明を読む必要があった。基本的に触ってもいけない。洗顔も泡で。

 言いたいだけのワードも授かってきた。それはおよそ1週間ほどの「ダウンタイム」。そして「ハイドロキノン」は昼間はつけない。美容って大変(笑)。3日ほどして鏡をみたら、黒くなったカサブタがとれて綺麗になっていた。

 昔よりはだいぶ、安くなったといわれ、興味を持ってやってみた。患部を日差しに当てないように、毎日日傘をさしている。男性である僕が、レーザーでシミをとる。これは昔では考えられない大きな変化だ。

【秋刀魚】

 秋の訪れを告げる。今年の秋刀魚は大漁だ。いっとき何年か不漁が続いていたころ、今までこんなことはなかったと、みんな秋刀魚の高騰を嘆いていた。

 これは世界の変革だ。気候変動による海水温の上昇で、秋刀魚の回遊経路が変わってしまった。同時に近隣国も以前に増して秋刀魚を獲るようになった。その結果として漁獲量は激減した。

 その秋刀魚が今年は戻ってきた。スーパーにも連日特売の札と共に並ぶ。小料理屋さんでも手頃な価格でだしてくれる。自分で焼いても美味しい。お店で食べると、なお美味しい。

 大根おろしを添えて。すだちも添えて。ただ塩をして焼くだけだから、少しこういうところはオシャレにする。大根おろしはいくらあってもいい。ほんの少しの醤油をたらす。塩とのコントラストがいい。

 昔から変わらない味。しっかりと脂の乗ったこの時期、しっかりと育った秋刀魚は、変わらずに美味しくて、ずっと人々に愛されてきた。

 季節の恵み。旬のものをいただく。その味わいも一番いい時期で、たくさん獲れる。だから価格も下がってありがたい。変わらないこの美味しさって本当に幸せだなぁと。しみじみ思う。

 日本酒がしみわたる。世の中はどんどん変わるもの。信じられないことも起きる。起きるものだと思って生きていく。それは備えでもあり、ショックを和らげるための処世術でもある。

 気の向くままに、好奇心の向く方に、変化があればついていこうと頑張ってみる。変わらなくていいものも、大切に丁寧にこうして向き合ってみる。

 火がパチパチ燃えているのをみるとなんだか気持ちが落ち着くなと、次の秋刀魚を焼く炭に落ちた脂が小さく燃えている様子を、大将の背中越しに眺めながら、「旬」真っ盛りの秋刀魚を肴に、お酒をいただく。

 

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【猫の半分】