【あなたが今、どこで何をしたいかよ。といわれた、あの日】
【色々な名言】
「我が人生一片の悔いなし」といって、高らかに拳を突き上げて、立ったまま、その天命をまっとうした偉人がいた。
「そんなことが本当にあるのか?!」と、当時小学生の僕は、あの日漫画のワンシーンに心を打たれたまま。
鏡に映る今の私は、自分の想像を超えて、少し太った小さなおじさんだった。足も短い。高らかに拳を突き上げる腕も太いが短い。
「人は皆、そんなものなのでは、ないだろうか」と、好きな映画の最後の一言みたいなことをいうと、不甲斐ない自分への言い訳が完成する。
しめにひとこと。「にんげんだもの」
まさを
また今日も新しい一日がはじまります。
「今日という日は、あなたの残りの人生の中で、最初の一日目です」
こういう考え方はなんか良い。
「世界には、二種類の人間、男と女しかいないんだ」
「世界には、二種類の人間がいる。それは、インドに行く人と、インドに行かない人だ」
名言のようで何も言っていない言葉もある。
【変わりのない日々】
もう、11月の予定が入った。年に一度の人間ドッグ。今年最後の採血だ。まだ8月だけど、今年も終わりがみえはじめた。
毎日いろいろあるけれど、基本的に変わりのない日々。戦争や災害が今日も絶えない。確実に涙を流している人がいる。血を流している人がいる。
僕は無防備に、家から職場まで歩いている。いつものようにラジオを聴きながら。たまにラーメン屋さんに寄ったりしながら。八百屋さんで「暑いですね」なんて、いったりしながら。コンビニで氷菓子を買ったりしながら。
大きな変化のない日々に、安堵し、感謝して、夕方には、冷たい水道の水を、大きなジョウロにいっぱいにして、ベランダの緑にたっぷりとかける。薔薇の花は今も新しい蕾をつけて、新しい花を咲かせてくれる。トマトは花は咲いたけど、暑さのせいか実がつかない。
ふと空を見あげると、雲が高くなっていて、秋が近いことを感じさせる。
【あなたが今、どこで何をしたいかよ。といわれた、あの日】
その国の言葉も、そこの宗教のことも、歴史も感情も、ほとんどわからないのに、「ここにいたい」といった僕に優しく、それがあなたの答えだよ。といってくれた。
世界を震撼させた、驚くほど大きなあのテロがあった直後から、家族や友人から、今すぐ帰ってこいとメッセージが続いていた。
正直、怖くて仕方なかった。英語すらまだ片言で、慣れない生活が始まってから、まだ一か月しか経っていなかった。
ボランティア・リーダーとして、僕らの面倒をみてくれる六十代半ばであろう女性、サラに声をかけた。
「ここは危なくない?みんな帰ってこいといってくる」
「私は、家族や親戚を殺されてこの地に来た。ここが危なかったら世界中に安全なところなんて無くなってしまう」
「じゃあ、僕はどうしたらいい?」
「大切なのは、あなたが今、どこで何をしたいかよ」
サラにいわれて、少し間があった。ためらったのではない。
それはきっと、即答に決意をのせるための時間だった。
「僕は今、ここにいたい」
「それがあなたの答えよ」
嬉しそうに笑ったサラは、僕の肩に優しく手を置いた。
遠い異国の地だと思っていた場所に、僕は受け入れられたんだ。ここは僕がいていい場所だ。僕が他の国に行くまで、僕はここに居ることを迷わない。
見慣れぬアジア人の僕を、興味本位でからかう人はいる。
僕はただ、「ボランティアできている。この国に住んでいる」そう答える。やがて誰も何もいわなくなる。知らない街を歩いていても、僕をからかう人はいなくなる。
その時の僕からは、この地に住む覚悟と、この地を尊重する視線が、歩き方からも滲み出ていたのかも知れない。
地球で生きていく未来の人たちのために、尊重する心使いと、尊重される心使いを。世界中に安全な場所を残すために。
サラの笑顔を思い出す。